DMはじめの一歩3.5e

第2歩目 DMのお仕事

070305
文責:石川

 DMとは大変な仕事である。

 プレイヤーという名の血に飢えた鮫---それもほとんど場合、確実に君よりも多くの頭数を備えている---を相手にシナリオを切り盛りし、ストーリーを最後まで運ばなければならない。
 君はその間、プレイヤー達の要求を聞き流し、無理難題を押さえ込みつつ自らの主張をプレイヤー達に納得させ、わき起こる”クソマスター!”の合唱を柳に風のごとく受け流し、時にはなだめ、時には脅しながら戦い---そう、それは戦いだ!---続けなければならないのだから。


 
 ご存じの通り、DMの仕事は非常に多岐にわたっている。
 ルールの間隙を付いてエロい事をしようとするプレイヤーの手にしたコーヒーカップに下剤を盛ったり、いつも20ばかりでる20面体を噛み割って中に仕込まれた錘を探し出したり、夜の目も寝ずに探し出した「脅威度の割に強烈なクリーチャー」を「だってシナリオに書いてあるし」とか言いながら大量に出したときにわき起こるPL達の悲鳴をBGMにステキな日曜の午後を楽しむばかりがDMの仕事ではないのだ。

 いや、正直なところを言えば私はDMの仕事とは「そういうもの」であり、さんざ「そういうこと」を
心ゆくまで楽しんでから、いかにも悲しそうな顔で「だってシナリオに書いてあるし(ほんの少しだけ調整したけど)」と、当然( )内は心の中にそっと忍ばせながら呟くのがDMの役割だとばかり思っていたのだが、名著Dungeon Master for Dummiesによると、どうもそれだけではないようだ(*1)。

 本書の著者であるBill Slavicsek
ベーシックゲームとかD20モダンのデザインしてる人だ!)によれば、DMの役割は以下の6つに大別できるという。


1つ、DMとはルールの進行役である
1つ、DMとはナレーターである
1つ、DMとは”その他大勢”のキャストである
1つ、DMとはプレイヤーである
1つ、DMとはソーシャル・ディレクターである
1つ、DMとはクリエイターである



 ふむ、なるほど。言われてみれば。
 
 というわけで、今回は偉大なるビルに敬意を表しつつ、6つの役割に添って「DMのお仕事」を紹介してみよう。
 



DMとはルールの進行役である

 DMにとっての最も大きな仕事の一つに「ルールの判定」が挙げられることは論を待たないだろう。
 TRPGは自由度の高い遊びではあるが、それが「ゲーム」として成立するためにはルールが備わっており、かつそれが守られることが必要となる。そして、それには公平な立場でルールを判定するもの、すなわち審判が必要なのだ。
 野球におけるアンパイヤなんかと同じく、D&DというゲームにおいてDMは審判として働かなければならない
 ルールに従ってゲームを進行しつつ、さまざまな状況や行為の正否を判定する。
 それがDMの仕事である。

 そしてもう一つ。
 DMはルールにない状況に対しても対応しなければならない。
 D&Dはルールが細かく積み上げられながら構築されてきたゲームであり、今なお状況や要求に応じてルールが作られ、ルールが増え続けている。
 にもかかわらず、未だに現行ルールでは判定できない状況が生まれるときがある。
 
 そう、偉大にして全能なるモンテ・クックや崇高にして強壮たる使者スキップ・ウィリアムス---我々下賤にして無能なるDMのプレイアビリティを向上させるべく
「いらない/壊れたマジックアイテムランダム決定表」「モンクの必殺技名称決定チャート」「ダンジョンに生えてる地衣類決定表」「人型クリーチャーの付けているアクセサリーランダム決定表」(*2)などといった有用なルールを下される大いなるデザイナーたち---でさえ、セッション毎に必ず使う技能の一つ〈聞き耳〉の際、他の音があるとき邪魔になるかどうか等といった基本的な事項に対して明確な回答を示していない。また「出会ったNPCのクラスってどうしたらわかんの?」とか「マジックアイテムって作った本人じゃなくても強化できるの?」とか、3e時代からずーっといわれ続けている疑問がまったく解消されないままになってたりする。

 実際のところ、「ルールが決まっていること」というのは「決まっていないこと」より遙かに少ない。

 ま、そりゃそうだよね。
 どうでもいいこと一つ一つにルール作ってたらルールブックが何ページあっても足りなくなる
(まあ、上に挙げた例は実際に困ることが多いからきっちり決めといてほしいんだけどさ)。
 また、実際にはルールがあるけど、「それが見つからない」あるいは「知らない」場合だって当然あるだろう。

 で、そうした事象を判定するには、その場での
DM判断が必要になわけだ(これが難しい、というのでDMをやるのを敬遠する人もいるのだそうな)

 では、DM判断を円滑に行うにはどうしたら良いのだろう?

 まずは、
ルールをしっかりと自分のものにすることだ。
 ルールに規定されている事象は割合でいえば少ないものだけど、
決まったルールから援用したり、あるルールを参考にどう判定するかを決めることは難しくない
 また、現行のルールを元にした判定であれば、難易度の基準なども決めやすいだろう。特殊な状況でしか付かないボーナスだとか脅威度の割に強いクリーチャー、レベル調整値の割に強烈なテンプレートなどといった枝葉末節ではなく、
「ルールの骨格をつかんでおく」こと。これが君のDMingをより円滑に進めることは間違いない。

 #では”ルールの骨格”とは? については一言で言い表すのは難しい。
 #さしあたり、このへんとかこの表とかを参照のこと。

 ここで気をつけてほしいのは
DMがルールの”すべて”をマスターしている必要はないという点である。
 もちろんそうあることが理想であることは間違いないが、かといって
DMが誰よりもルールに詳しくなければいけないわけではないし、全てのルールを使わなくてはならないなんて事は一切無い
 ぶっちゃけた話、判定をどうしたらいいかわからないことに行き当たったら参加プレイヤーに聞いたって良いのだ。「これって判定するルールある?」とかなんとか。
 それでなんとも答えが出なかったら、その時はじめてDM判断を行えばいい。
 ”知らないことは無いのと同じ”。
 力強い開き直りこそが、君のセッションを円滑に進めるだろう。
 かのモンテ・クックでさえ、自身のコラムで「ルール調べるのがめんどいときは目標値15の該当しそうな能力値チェックでいいんじゃね? んで、状況が有利そうなら+2,不利そうなら-2とかしときゃいいんじゃね?」との仰せである。
 It's true!! It's damn true!!

 さて、DM判断を行うに当たっては、DMたる君が
フェアであり、かつ一貫していることが要求される。すなわち、全てのプレイヤー(それには君、すなわちDMも含まれる!)に対して公平に接し、「なぜそう判定するか」をクリアに示すこと。これこそが「皆が納得できる」DM判断の原動力となるだろう。
 君が公平に、そして的確に判定していればこそ、プレイヤー達は3e時代からの金言である「Your DM is always RIGHT!!」という言葉を受け入れてくれるのである。いくら君が顔を真っ赤にして
「ぼくが一番ルールをうまく使えるんだ!」と主張してみたところで「どうしてそういう判定になるのか」が説明できなければ、プレイヤー達は君の卓から去っていくことだろう。彼らがしたいのはゲームであって、「君がしたいようにできるごっこ遊びのコマになること」ではないのだから。

  
”判定を一貫させる”のも重要だ。
 「セッションの最初で判定されたのと同じ事をしたのに今度は判定法が違う!」なんてことになれば、PC達は誰が何をするかを決めることも難しくなってくる。せめて1セッションの間だけでも判定は一貫させるようにしなければならない。
 一貫した判定を確実に行いたければ、メモ帳を一冊、あるいは大きめの付箋紙を準備しておくと良い。ルールにないことを判定したとき、こまめにメモっておくことで「前回の判定の時はどの能力値で判定したっけ?」なんてことが回避しやすくなるし、将来似たような判定をするときの参考にすることが可能になる。また付箋紙であれば関連するルールの部分に貼り付けておくことでより見やすくすることが可能になる。

 最後に、DMはそのセッションにおけるルール管理の最高のオーソリティである。
 よって、あるルールの解釈でもめたとしても、君が”そう”判断するのなら、そのルールは”そう”いうルールなのだ。あえて言うならば、君はルールを無視することも、ルールを曲解することだってできてしまうのである。

 しかしそんなことを繰り返していれば君の周りからプレイヤー---というよりも友人---は去っていくだろうし、君も楽しめなくなっていくだろう。
 フェアであること、クリアであること、そして一貫していること。
 この三つが備わってこそ初めてDMという”権力”は有効に機能するのだ。
 
 人間同士があいまいな基盤の上で遊ぶTRPGというこの複雑怪奇なゲームを楽しむには、DMとPL相互の信頼なくしては不可能であることを、なによりDMである君こそが肝に銘じておいて欲しい。



DMとはナレーターである

 君のセッションやキャンペーンは、君と、そしてプレイヤーたちのイマジネーションの中に成立している。そのイマジネーションを共有するために必要なのが
ナレーターとしてのDMだ。

 ここで重要なのは、
「ナレーターとはPCがどう動くか説明することを意味していない」という点である。PCの行動はあくまでもPCが決めるべきものだ(*3)。君のナレーターとしての任務は、耳や目という扉を通じて、PC達を君のイマジネーションの世界へ連れ出すことにある。

 よって、君のナレーティングはPC(PL)達の
興味を引きつけ、かつ深く印象に残るものである事が望ましい。
 何が見えたか、何が聞こえたか、どんなにおいがしたか---そしていまPC達がどう感じているかを伝える。そこにPC達の目を引くであろうもの・ことの全てが盛り込まれていればなお良い。現在
PCが置かれている状況を過不足なく伝えること、これこそが君のナレーティングの第一の目的である。
 「何かがありそうだ」とPCが考えそうなものや、注意の向きそうなものについてだけでもざっくりと説明されていれば、PC達は次の行動を考える事ができる。もちろん、隠されたもの---閉じられたドアの向こうや古ぼけたチェストの中身についてまでは説明する必要はない。それらがどんな状態であるか、PC達がその五感でどのように感じているかを語ることができればそれで充分だ。あとはドアやチェストが開かれるとき、一体なにが起きるのか、またその場所で〈視認〉 〈捜索〉 〈聞き耳〉 などが行われたらどう返答するかを決めてさえあれば、ゲームを進行するには困らないだろう。
 
 周囲の状況が特別なところであれば、ちょっと詳細な説明を入れる事で、臨場感を高めたり、場の雰囲気を盛り上げることも可能となる。
 たとえば地下の納骨所に入るのであれば、単に「不気味な雰囲気がする」と伝えるだけでなく「納骨所の奥からはカビと朽ちた材木のにおいが地下独特の湿った空気に乗って流れ出してくる。まるで老婆の手のような不気味な肌触りと生暖かさを持った風が君たちの頬を撫でる」などといった風に表現することで、「いつもとは違う場所」であることを伝えることができるわけだ。
 同様に、モンスターの表現(
ただ「オーガが2体でたよ」ではなく、「緑色の肌を持った身の丈4mほどもある巨人が、昼食にちょうどいい獲物を見つけたといわんばかりのいやらしい笑みを浮かべたまま、腰に下げた棍棒を手に取ってこちらに走ってくる」)であるとか、交渉相手の雰囲気(「彼は眉間にしわを寄せ、一秒でも早く席を立ちたいとでも言いたげな風情で憮然として君たちを見ている」「彼女は君たちに抱く憧れの情を隠そうともせず、酒瓶の並ぶ棚から一番上等なワインを取り出し君たちに勧めながら”おつかれさま! 今日はどこを探検してきたの?”と楽しげに聞いてきた」)などを伝えることで、PCが次の行動を決定しやすくできる(*4)。


 もう一つのナレーターの役割は、
「PC達の行動によって引き起こされた結果」を伝えることにある。

 PC達が行った行動で、状況はどのように変化したのか?
 PCの技能チェックで一体何がわかったのか?
 PCが〈捜索〉 で調べた結果、部屋に残された死体には一体どんな遺留物が?
 PCの発言で、交渉相手の態度はどう変わったのか?
 
 こうしたことが詳細に示されることで、PL達は自分たちの行動の結果を詳しく知ることが可能になるし、なにより
「行動すること」の楽しみを味わうことが可能になる。
 あるドアを調べたとき、単に「別になにもなかった」と言われるよりは「ドアには特に目立った傷もなく、ノブにはうっすらとほこりが積もり、長らくこの扉に触るものがいなかったことを思わせる」などといわれた方が、PCも次のリアクションが考えやすいというものだろう。

 ただし、感じ取ることのできる全てをナレーティングするのは止めた方がいい
 あまりに多すぎる情報はPL達の注意力を散漫にしてしまい、気付いて欲しい情報をスルーされてしまう原因にもなりかねない。「細かく話せばいい」ってものではないのである。かといって情景描写が少なすぎると、今度はなんとなく無味乾燥な感じになってしまう。また、「ストーリーと関係あるものだけが半ば恣意的に説明されている」ような感覚を抱かせてしまう原因にもなりかねない。
 このへんのさじ加減は微妙であり、慣れるまではやや難しいところかもしれない。
 
 

DMとは”その他大勢”のキャストである

 普通、プレイヤーは一人で1人のPCしか使わない。でも、君がDMとしてプレイするときには、PCと関係する人々---そうしたキャラクターはNon Player Charactor、略してNPCと呼ばれている---
全てをプレイすることになる。チョイ役から重要な仲間、アドバイザーに至るまで、君の扱うNPC全てがその対象となる。PCとともに、彼らは生きているのだ。
 こうしたNPCのほとんどは、DMの演技を助けるようなちょっとした特徴があれば、あとはプレイに必要な能力(1つ2つの技能とか)を設定しておく程度で充分である(*5)。手慣れたDMはその程度の変化にあわせて声音や振る舞い、態度、アクセントを変えたりしつつ、「特徴ある別人」を演じることができるだろう。
 しかし一部のNPC(よりPCと関わりが強かったり、重要な役割を果たす場合)にはもうちょっと、もしくはPC同様ゲームに必要なデータ全てを作成する必要があるかも知れない。

 NPCはエキストラのような端役であったり、ストーリーの中でちょっとした、そして時には重要な役割を果たしたりするのだが、おのおのは別のキャラクターである事に注意しよう
 たしかに端役であるかも知れないが、彼ら一人一人は別の人間なのだ。それを表現するために、個々のNPCには特徴が与えられるのである。こうした特徴はプレイヤー達えのとっかかりのようなものだと思えばいい。彼らはこのとっかかりを元に、そのシーンを記憶し、印象深く感じることができるのである。
 こうした「その他大勢」と同じく、PCをサポートしたり、PCと密接に関わるNPCにも特徴を与えておくと良いだろう。ただし、
君のNPCはDMたる君の知っていることを全て知っているべきではないし、PC達の先回りをするべきではない。PC達が知恵を凝らしてオーク達を待ち伏せしていることを(何ら理由なく)オーク達が知っていることはないはずだ。
 君のNPCは物語のヒーローであるべきではなく、PCにあたるスポットライトを奪うような事はすべきではない。もちろん、時にそういうことがあるのはかまわない。しかし基本的には物語はPC達の手に委ねられるべきであり、君が好き勝手をするのを見せるものではないのである。
 
 ついでにもうひとつ。君のNPCとPCたちを、同等に扱うよう努力しよう。NPCを作るために(特に有利な方に)ルールを曲げたりするべきではない。NPCはPCの物語を形作るものであり、時にはそれ自体がPCにとって脅威となることもあるだろう。しかし、君自身がプレイヤーの敵や脅威であると見られる必要はないのだ。



DMとはプレイヤーである

 DMはその他大勢のキャストであると同時に、プレイヤーでもある。確かに君はストーリーを進めるための情報を持ち、行動を起こすNPCを無数に使う事になるのだが、だからといって君が--プレイヤー達がそうしているように--ダイスを振り、何が起こるかを楽しんではいけないなんてことはない。
 そう、つまり、君の放った6本腕の暗殺者が〈隠れ身〉 でPC達の目を逃れて奇襲を行うことで何回急所攻撃を入れられるかだとか、暗殺者のダガーに塗られた毒が何度セーヴをすり抜けて追加ダメージを与えられるか、などといった楽しみを妨げるものは何もないのである。
 戦闘ばかりでなく、たとえばPC達の目指す場所の護衛達がPC達を見つけ出すかどうかの〈聞き耳〉 〈視認〉 ロールや、曲がり角をどちらに曲がっていくか、仮にPCを見つけたとしたとき彼らが仲間を呼ぶのか、それとも剣を抜いて走ってくるのか、などといった事もランダムに決定することもできる。

 ただし、いくらPCと同じようにゲームを楽しむことができるといっても、プレイヤーとして楽しむという点と、「DMはゲーム中はほぼ全能の存在である」という点をしっかり切り離すことを忘れてはならない。
 DMはNPCやクリーチャーがどのように行動するかを決めることができ、かつそれを確実に実行できる。その計画にはほとんど努力が必要ない。

 PC達が「前衛! そんな前でたらファイヤーボールに巻き込まれるぞ!」「クレリックそんな位置じゃ俺を回復できねえだろ!」「うるせえ文句あるならもうちょっと後ろに来い!」なんて罵り合っているのを尻目に君の操るオーク野盗団は水も漏らさぬ完璧なフォーメーションでPC達を蹂躙できるというわけだ。

 しかし、やっぱりそれって変なんだよね。それが訓練を受けたエリート兵士集団ならともかく。いや、それでも実際に「水も漏らさぬ完璧な連携」てのはなかなか実行できないかもしれないが。
 そこで、もし君が敵をチームとして出すようなことがあるなら、シナリオに「そのチームはどのような目的/行動指針で戦うか」を1,2決めてメモっておき、極力それにそって戦うようにしよう。市販シナリオにおいても、たいていの敵にはこうした行動指針が示されているはずだ。

 こうした指針はシンプルかつ単純な方がいい。たとえば「モンスターは相手を皆殺しにするまで戦い、hpが半分か1/4になった時に降伏する」とか。モンスターによっては「見た目一番強そうな奴を最初に攻撃」とか「見た目で術者っぽい奴を総攻撃」なんて指針があっても良いだろう。

 指針の「かしこさ」はその群れのリーダーの【知力】や【判断力】に応じて判断してもいいだろうし、経験やクリーチャーの習性(たとえば狼は集団で、いわゆるウルフパックと呼ばれる秩序だった”作戦”で大きな動物を仕留めることが知られている)を加味しても良いだろう(*6)。

 逆に、何ら理由なくものすごく「かしこい」戦術を取ってくる相手を連発することはオススメできない。たまになら「なぜこんな田舎のゴブリン達が完璧に秩序だった襲撃を? だれか後ろで命令してる奴がいるのか?」なんて風にシナリオフックにすることもできるだろうけど、臆病なはずのコボルドが前線を支えるために命をはってPCの移動を妨げたり、機会攻撃を消耗させるべくムダに戦場をあっちこっち移動したり、てのはやっぱり不自然だろ?

 また、モンスターの特殊能力に添った指針(直線状ブレスを持っているなら「隘路に並んでいるところを一撃」とか、飛んでいるクリーチャーなら「頭上を通過しながらジャベリンを投げつける」とか)を選ぶのも良い。ただし、先の連携や「かしこい」ヤツらの話と同じで、ここで「やり過ぎ」るとやっぱりフェアじゃなくなる。
 たいていのプレイヤーってのは、
そのモンスターの特殊能力を生かすために考えられたとしか思えない地形で待ち伏せして回避不能な攻撃を仕掛けてくるDMとは仲良くできないと思うのですよ。
 あとルールにないもの(たいまつの煙で充満した部屋:この部屋では視認困難を得るが、この部屋に常駐するゴブリン達は煙になれているので視認困難の影響を受けない)でモンスターに有利な環境作ってみたりとか。
なあコーデル


 さて、ダイスを振るときには、DMにはいくつか振り方がある。
 これはどれが優れている、ということではなく、そのDMがどういうプレイスタイルでプレイしたいかによって異なるものである。

○全てのロールを秘密裏に行う
 一部のDMは、DMスクリーンの裏側で全てのロールを行う。この場合、PLたちには結果だけが伝えられ、「どの程度の成功/失敗か」が伝わることはない(つまり、ダイス目で相手の実力が測られる、いわゆるメタゲーム的な事をされずに済む)。
 また、この方法を使っていると「ロールの結果がどうであれゲームの進行に良い方に変えてしまう」ことが非常に容易になる(この、いわゆる「DMチート」はストーリー進行には非常に有益だが、一方でPL達の緊張感を削いだり「ご都合主義感」を与えてしまう危険があるのであまり頻繁に用いるべきではないだろう)という利点もある。
○全てのロールをオープンで行う
 一部の、いわゆるガチDMと呼ばれるDMたちは、全てのダイスロールをオープンにし、その結果全てを受け入れる。この方法はダイス目の生む悲喜こもごも全てを味わう事が可能であり、非常にスリリングな冒険をPCたちに提供できるが、一方で非常にデッドリーな結果を生み出す危険性をはらんでいる(ああ、オークの持つ大斧が、一体何人の前衛たちの命を奪ってきたことか!*7)。
 ダイスロールでの平等は明確になるので、シナリオのモンスターの強弱の加減を間違えるとものすごい大惨事になったりすることも。ある意味そのDMの人間性が浮き彫りにされやすいスタイルと言えるかも知れない。
○時にはオープンに、時には秘密裏に
 場合によってオープンにするか否かを使い分けるやり方。
 たとえばPC達が知り得ない情報(まだ発見されていない敵の〈隠れ身〉 や〈視認〉 ロールなど)はDMスクリーンの裏で、また戦闘は常にオープンで行う、など。
 どういう場合にオープンにするかの指針は人によって違うだろうが、上手に選択することでPC達に緊張感を提供することが可能になるだろう。(*8)
 
 どの方法を用いても問題ないだろう。
 どんな方法であれ、以下のお題目を守るだけで、君は良い「プレイヤーDM」となることができるのだ。すなわち
『フェアであれ。筋を通せ。』 ただこれだけである。
 君がNPCを過度に強くし、活躍させれば、そのNPCはPC達から嫌われるだろう。NPCを使って物語を強引に進めようとしてはいけない。
 シチュエーションを用意し、君はNPCやモンスターをプレイする。
その結果がどうなるかを決定するのは君ではなく、君のプレイヤー達の行動なのだ
 そして、そうやって思いもよらぬ方に話が転がっていった時の方が、プレイヤーに、そしてDMにも「面白いプレイだった」と深く印象に残ることが多いものだったりするのである。



DMとはソーシャル・ディレクターである

 D&Dてのはもちろんゲームなんだけど、ある意味「社会的な」ゲームでもある。オンラインでもオフラインでも、DM+プレイヤー数人全員の予定をあわせなきゃプレイはできないし、なにより集まるための場所だって必要だ。
 でまあ、こういうとき音頭を取るのはたいていDMの仕事になってたりする。まあそりゃそうか。プレイヤーが1人2人欠けたってプレイできないこともないけど、DMナシじゃ集まったPLたちはマヌケ面並べてぼんやりよた話をするか、フィギュア用に持ってきたDDMで200ポイント戦するくらいしかやることなくなっちゃうもんな。
 そう、DMには”プレイグループ”という名の社会的なグループを構成する役割もあるわけだ。

 おっと、勘違いしないでくれよ。
 DMである君はプレイグループを構成する役割を担わなければならないが、それは
「グループを作るときの全ての面倒ごとを君がひっかぶる義務を負う」という意味じゃない
 プレイを始めるまでにはたくさんの仕事がある。場所を借りるとか、ルールブックを用意するとか、プレイに必要な資料をコピーしておくとか。
 そうしたことはなるべく君が手配する(少なくとも準備忘れがないかどうかチェックできる)ようにしておくべきだが、手配を実際に行うのが全て君である必要は全くない。DMはただでさえシナリオや敵のユニットを用意するなんて具合に負担は大きいのだから、たとえば集合時間の調整や会場レンタルの申し込みなんかを誰かに頼んでもいいし、会場に持ってくるサプリメントなんかはプレイヤーで手分けして1冊ずつ準備してもらえばいい。コピーなんかも前もって係を決めておき、メールで送って印刷しておいてもらったりといった具合に協力してもらい、準備にかかる負担を分担してもらうのだ。

 実際、この「割り振る」という作業は意外とやりにくいものだったりする。面倒な仕事を進んでやりたがる者はいないし、余りよく知らない相手だと頼みにくいって事もあるかもしれない。

 でもね、ちょっと考えてみてよ。
 こういう面倒ごとを全部DMがやるとする。前述のように、DMってのはPLに比べて事前にやることも多いし、なんだかんだ言って経済的負担も大きい。
 そういうDMが「会場準備してるヒマがないからプレイしたくてもできなーい」とか「ルールたくさん持ってくの無理!」なんてことでプレイできなくなるのは激しくもったいないわけですよ。実際、そういう準備を全て行なわなきゃいけない、ってことが負担になってDM止めちゃってる人も少なくないって現実もあるわけで。
 
 繰り返すが、
1から10まで君がプレイの用意をする必要はない
 君がすべきはプレイするために必要な仕事のリストを作成し、「当日までにこんな仕事があるんだけど、手伝ってくれない?」とプレイヤー達にお願いすることだ。
 ただ、連絡が終わったらほっぽりっぱなし、では上手く回らないこと必定である。なので、e-mailや携帯メール、BBSなんかを利用して「現在の進行状況」を確認したり、リマインダーを準備しておくのはよいことだ。可能であれば「次回予告」的な内容、つまりこれまでの簡単なサマリーと「次はどういう事をするのか」をまとめて送っておくのは情報の整理になるだけでなく、プレイヤー達のモチベーション維持にも効果的だと思う。

 
 さて、実はDMにはもう一つ、ソーシャルディレクターとしての仕事がある。
 それは
君のプレイグループのメンテナンスだ。
 どんないい車だって定期的なメンテナンスなしにはうまく動かなくなる。同じように、君は君のプレイグループをメンテナンスしなければならないんだ。
 ではどんなメンテナンスをすればいいのか? プレイヤー同士がいがみ合ったり、言い争ったりするような状況を作らないことだ。
プレイヤー同士が互いに認め合い、尊重し合うことができるようにするのである
 全てのPCがまんべんなくとまでは言わないまでも、
全PCにスポットライトが当たるような機会を作るよう心がけよう。
 君の作るシナリオは戦闘ばかりになっていないか? 魔法を使わないと乗り越えられない障害ばかり出てきたり、交渉で全てが片付いたりしていないだろうか?
 1人ないし一部のキャラだけが活躍するような状態は好ましい状態とはいいにくい。セッションは参加者全員のものであって、特定の人物のためのものではないのだ。もちろんキャラクターの作り方やタイプによって多少の差が出ることはあるだろう。しかし、セッション中の困難を一人のPCが全て解決してしまうような状況では、残りのPC達は四六時中添え物のパセリのような気分を味わうことになる。
 もし君の卓がそうした状態になっているようなら、それはそのプレイヤーが
異常にキャラクターメイキングが上手なのか、君にわからない方法でインチキをしているか、でなければ君のシナリオがそのPCの得意分野に偏ってしまっていることを意味する。これを機会に、ちょっと見直してみるといいかもしれない。
 


DMとはクリエイターである

 君がシナリオ自作派でも、売ってるシナリオを部分部分組み合わせて使うDMだとしても、あるいはそのまま使うのDMだとしたって、DMってのはクリエイターとしての役割を果たさなければならない。
 どんなシナリオを使おうと、何かを決定したり、どのルールを使うかを決めたり、モンスターや住人達の態度を決めたり、その場面をナレーションしたり---どれを行なうにも、君のクリエイターとしての能力が必要となるのは言うまでもないことだ。
 DMによっては世界を丸ごと一つ創造し、シナリオに利用する人もいる。これはDMとしての楽しみのうちでも最大級のものといってもいいだろう。君はPC達を取り巻く世界を造り、ストーリーの背後に潜む影を造り、冒険やストーリーにおける全てを作り上げることができるのだから。

 とはいえ、全てのDMがそれぞれのオリジナルワールドを造る必要なんて全くない
 「君たちは洞窟の前にいる」から始まるシナリオであれば、ダンジョンの中だけ造ってあればそれはその世界全てなんだ。そのダンジョンの南200マイルのところに英雄王が住んでいようが北60マイルのところに伝説の巨竜シューティングスターが住んでいようが知ったこっちゃない。
 そのセッションで関係のない部分なんてあってもなくても(少なくともPC達には)関係ないんだからね。
 
 もし君が世界を造るためのアイデアが全くない、というなら、上に述べたようにダンジョン一つからスタートしたってかまわない。
 そのダンジョンが終わったところでセッション終了。次のセッションには補給が必要だろうから、そのダンジョンの近所の小村からスタートすれば、ほら、「ダンジョン」から「ダンジョンと近所の村」まで世界が広がったじゃないか。慣れてきたら同じ調子で「近くの町」「ちょっと遠くの街」「遙か向こうの首都」といった具合に少しずつ世界を広げていけば、いつしか君独自の世界が生まれていることだろう。
 もちろん、君が一から造る必要だってない。村や町はそのままどこかのシナリオに載ってるものを使ってもいいし、世界だってグレイホークやフォーゴトン・レルム、エベロンをそのまま使ったってかまわない。もちろんこれらを組み合わせたり、君が使いたいように改造したっていいんだ。
 何より大切なのは、
君が使いやすい世界を使うってこと。少なくとも慣れないうちは、これが一番重要であるように思う。

 ちなみに、シナリオでもそれは同じ事。どんなに世界中のDMからの評価が高いシナリオだって、君が使いこなせないんじゃ意味がない。だったら君が使いこなせる形に改変するか、使える部分だけを切り出して君のシナリオにしてしまうほうが何万倍も良い結果を生むだろう。
 
 君のクリエイターとしての役割は、君の世界をプレイヤー達に発表するためのものではない。君の世界をプレイヤー達が楽しめるようにするためのものだ。
 それにはルールブックなんかよりも、良い小説や映画をたくさん見る方がずっと参考になるだろう。


 
 さて、6つの役割を抄訳しつつ、ぞんざいにいしかわの考えを述べてみたわけであるが、これが正解とか本流とか言うことは言うつもりはない(てゆうか口が裂けても言えない)。
 
 これ以外にもDMの役割はあるだろうし、役割一つ一つにしてももっといろんな考え方があるだろう。

 でも、それはそれで正しいんだと思う。
 だって、何が楽しいかってのは人それぞれで、楽しいやり方ってのもまた千差万別なわけだから。

 そう、DMってのは、
プレイヤーと、何より自分が楽しむためにDMをするんだ。
 そのことを忘れないで欲しい。


 ビルは章の最後をこうまとめている。

「このように、DMにはたくさんの側面があり、仕事がある。ではDMにとってのゴールとはなんなのか? ゴールは無数に存在しているが、それらを要約するならば、
それはたった一つ、「楽むこと」につきる
 DMはゲームを進行することを、そして、冒険を作り上げ、PC達の物語をナレーティングする事を楽しむ。DMとPLの両者が楽しい時間を過ごし、満足することができたとき、D&Dというゲームは社会経験と同じように君の人生を輝かすのだ
 君が好きなのがルールを取り仕切ることでも、物語を語ることでも、シナリオを作ることでも、あるいは他のいずれの経験であっても、
君がDMたるべき唯一の理由はただ1つ。「君が楽しめるから」に他ならない。
 
君が楽しみ、君のプレイグループが楽しむ。それこそがD&Dの全てなのだ





 

 Have a Nice Game!!

  Bang!Bang!


【意味もなく画鋲の山にむかってバンプを取りながら】





*1:あんまり買ってる人がいないっぽいけど超おすすめ>”Dungeon Master for Dummies。実践的なこともフォローしててすごく読みやすい。読んでると「なるほどー」と思うことが一杯書いてあります。DMingの予習・復習に持ってこい。ちなみに姉妹書に当たる「Dungeons & Dragons For Dummies」はかなりダメのダメダメなのでこちらはオススメしない。作者のKim Mohanって結構古くからD&Dに携わってる人のハズなんだが。や、いしかわの貧弱な英語力ではおもしろさがわからねえだけの話なのかも知れんけど。
*2:いずれも実在。モンテやスキップが作った訳じゃないないけど。ちなみに「13忍者」というアホなキャンペーン名は件の「モンクの必殺技名称決定チャート」によりジェネレートされました。いま見返してもアホだ。
*3:もっとも、最近のシナリオ(特に時間を短縮したい場合の)ではPCの目的とかを決めてハンドアウトなんかで渡しちゃう、という手法も多くとられいる。「君は財宝の噂を聞きつけてダンジョンの前に立っている。君の周りには、君が誘った仲間達がやる気に満ちた表情で君の進撃の合図を待っている」みたいなカンジで。
*4:ついでにいえば、こうやってPCの行動を誘導してシナリオを進めやすくすることもできるだろう。
*5:このへんの詳細は拙稿NPCの作り方にまとめて示してあるので参照のこと
*6:こうしたアイデアは自分がプレイヤーの時や、全然別のこと(コンピュータゲームとか)をしてるときに不意に思いついたりすることが多いので、ちょくちょくメモっておくことをオススメする。
*7:3e時代、オークの標準装備品だった大斧は1d12ダメージでクリティカルダメージがx3なため、1レベル冒険者が一発食らうと即死することが多く非常に恐れられていた。その反省を生かしてか、3.5eではオークの標準装備がファルシオンシャムシールに変更になったのだが、両手持ちダメージが増えたところにクリティカル領域が広いシャムシールファルシオンにしちゃってるのはむしろデッドリーになってないかレイノルド。なにげに狙ってやってそうなのが恐ろしいのだが。そしてD&Dにはシャムシールはありません1モカごっつあんですギャー。
*8:ちなみにいしかわはこの方法を用いている。適度に緊張感煽れるし、必要ならチートもできるしで非常に使いやすい。